鉄欠乏性貧血
鉄欠乏性貧血は、体内の鉄が不足することで起こる最も一般的な貧血です。
世界では貧血の半数以上を占めるとされ、日本でも最も頻度の高い貧血です。日本人女性では約8~10%程度にみられるとされ、特に月経のある若い女性に多くみられます。
鉄は赤血球の中のヘモグロビンを作るために必要な成分です。鉄が不足すると体に十分な酸素を運ぶことができなくなり、疲れやすさや息切れなどの症状が現れます。
鉄欠乏性貧血でみられる主な症状
鉄欠乏性貧血では、全身の酸素不足により次のような症状がみられることがあります。
- 疲れやすい、だるい
- 動悸、息切れ
- めまい、立ちくらみ
- 顔色が悪い
- 頭痛
- 集中力の低下
- 氷を無性に食べたくなる(異食症)
ただし、軽い貧血では自覚症状がほとんどないことも多く、健康診断の血液検査で初めて見つかることも少なくありません。
鉄分が不足する主な原因
鉄が不足する原因は多岐にわたりますが、代表的なものとして以下のようなケースが挙げられます。
月経による出血
女性で最も多い原因です。月経量が多い場合は貧血になりやすくなります。
消化管からの出血
胃潰瘍、大腸ポリープ、がんなどによる出血が原因となることがあります。
特に男性や閉経後女性では消化管出血の可能性を確認することが重要です。
食事からの鉄不足
偏食やダイエットなどで鉄の摂取量が不足すると起こります。
鉄の吸収障害
胃切除術後などでは、摂取した食事から鉄を効率よく吸収できなくなることがあります。
妊娠・授乳
鉄の必要量が増えるため、貧血になる場合があります。
診断のための血液検査項目
血液検査では、主に以下の項目を確認して診断を行います。
- ヘモグロビン(Hb):貧血の程度を直接表す指標です。
- MCV:赤血球の大きさを表す指標で、鉄欠乏では赤血球が小さくなる傾向があります。
- 血清鉄:血液中を流れている鉄の量です。
- フェリチン:体内の鉄の貯蔵量(貯蔵鉄)を反映する重要な指標です。鉄欠乏状態では低値になります。
- TIBC/UIBC:鉄を運ぶタンパクの量を反映する指標です。
特にフェリチンは体内の鉄の貯蔵量を反映する重要な指標であり、鉄欠乏の診断に最も役立つ検査の一つです。
治療の流れ
鉄欠乏性貧血の治療は、鉄剤の内服(飲み薬)が基本です。
鉄剤を飲み始めると、通常は2~3週間ほどで貧血の改善がみられます。
なお鉄分の多い食事(レバー・ほうれん草など)をとることは大切ですが、食事だけで補える鉄の量には限界があります。
すでに貧血が進行している場合、食事だけで鉄不足を改善することは難しいことが多く、薬による鉄補充が必要になります。
鉄剤内服の注意点
鉄剤を飲むと便が黒くなりますが、これは薬の影響なので心配ありません。
他によくみられる副作用として、吐き気・むかつき・便秘・下痢などがあります。
これらの副作用がつらい場合には、以下のような方法で無理のない範囲で続けることが大切です。
- 1回の内服量を減らす
- 飲めるときだけ飲む
- 飲むタイミングを変えてみる(食事中や寝る前など)
なお、鉄剤にはいくつか種類があり、変更することで副作用が軽減することもあります。
特に、クエン酸第二鉄水和物(リオナ®)という鉄剤は、上述の副作用(胃腸障害)が比較的少ないとされています(※ 全く無いわけではありません)。
副作用でお困りの方は、薬の種類や内服方法を調整できますのでご相談ください。
注射(点滴)による治療
鉄欠乏性貧血の治療の基本は内服鉄剤ですが、副作用などでどうしても内服継続が困難な方や、貧血の程度がひどい方は注射剤での治療も選択肢となります。
近年では、少ない回数(2~3回程度)で多くの鉄を補充できる製剤(フェインジェクト®、モノヴァー®など)も使用可能です。
(※ 保険診療上は、原則的にヘモグロビン値が8.0 g/dL未満の方が適応となります。)
治療期間について
鉄剤は、ヘモグロビン(Hb)が正常になったら終了するわけではありません。
体内の鉄の貯蔵量(フェリチン)が十分に回復するまで、内服を継続することが重要です。
フェリチンが十分に回復しないまま中止すると、再び鉄不足になりやすくなります。
一般的には数か月程度の内服が必要ですが、出血が続いている場合などでは、回復に時間がかかることもあります。
再発について
特に月経のある女性では再発することが珍しくありません。
- 月経量が多い
- 息切れや疲れやすさが出てきた
といった場合は、再度血液検査で貧血を確認することをおすすめします。
参考文献
- 日本鉄バイオサイエンス学会. 鉄欠乏性貧血の診療指針, 2024
